空の旅にて

先日飛行機に乗ったら、隣に座った男性が離陸してすぐにバッグからノートパソコンを取り出し文書を打ち始めた。最初はカチャカチャとテンポ良く入力していたが、途中で何か考え込んでしまったらしく、急に彼の手が止まった。何気なく横から画面を覗いたら、ずっと「あ」という一文字を入力し続けていた。いつから入力していたのだろうか、画面はすでに「ああああああああああああああああああああああ…」という叫びで埋め尽くされている。一体どんな顔をして入力しているんだろうと思い、トイレへ行った帰りに彼の顔を確認したら完全に熟睡していた。そう、彼はキーボードの「A」を押したまま寝てしまっていたのだ。やがて着陸態勢に入る旨の機内アナウンスが流れると、さすがに彼も目を覚ましたようで、やっと目の前の現実にも気付いた様子だった。しばらくして私は再び彼の画面を覗き込んでみた、すると今度はBackSpaceキーを押したまま下から「あ」という文字を削除し続けていた。さりげなく横を向き彼の顔を確認すると、私の嫌な予感は的中した。完全に寝ている。しかも今回は口まで半開きだ。そして画面上では今日彼が入力した「あ」の削除がすべて終了し、引き続き離陸前に入力されていたであろう部分の削除に突入していた。再び目を覚まし、すっかり新規作成状態になった画面を見た彼は、両手を高く上げて気持ち良さそうに背筋を伸ばしたあと、ファイルの変更を保存せずに終了してから慣れた感じで手際よくノートパソコンをバッグにしまった。いったいなんて野郎なんだ。またこいつの隣に座りたいと思った。

コメント

  1. 雷電為右衛門 より:

    寝る前にぴったりのお話しでした。

  2. 新バキ結衣 より:

    おぱよござます
    おふとぅんの中で読んでたら途中二度寝しそうでした